またまた頭痛の症例です。

症例は30代の女性です。 元々偏頭痛の既往があり、月に10回程度頭痛を認めるとのことでした。今回は3日前の夜に、何かに打たれたような頭痛(患者さん本人の表現)が出現し、3日連続手持ちのスマトリプタン(偏頭痛の特効薬であるトリプタン製剤のひとつ)を内服しているが頭痛が続くとのことで当院を受診されました。

頭痛は左前頭部に限局しており、スマトリプタンを内服すると一時的には頭痛は改善するそうですが、すぐにぶり返すとのことでした。嘔気や嘔吐はなどの随伴症状は認めず、項部硬直(くも膜下出血や髄膜炎など脳表面を覆うくも膜の炎症で出現する所見 首が硬くなります)や神経学的な異常所見も認めませんでした。
重症感はありませんでしたが、何かに打たれたような頭痛であったことやスマトリプタンの効果があまりないこと、などから一度頭部の精査が必要と判断しMRI及びMRAを撮影しました。

すると・・・、
ぼうすい状動脈瘤


左内頚動脈(頭の中で一番太い血管)が海綿静脈洞と呼ばれる場所を走行する部分で紡錘状に拡張している所見を認めました(左内頚動脈海綿静脈洞部の紡錘状動脈瘤といいます)。普通の動脈瘤は風船状になりますが、この場合は血管が弾性板という組織を失い血管壁全体が膨らみます。前回提示したような血管の解離でも血管壁が不整形に膨らみますが、今回MRIでは解離の所見は認めませんでした。解離を起こしていなければ、血管が破けたり詰まったりする可能性は低いので経過をみることが多いです(時に徐々に大きくなって周囲の組織を圧迫すると治療が必要になることがあります)。とりあえず、数ヵ月後に再度画像評価を行う予定としました。

今回の頭痛に関しては、スマトリプタンが効かないことよりロキソプロフェンを頓服で処方し、漢方薬を試してみることにしました。
漢方医学的には、手足末端の冷えがある、便秘気味、睡眠は頭痛のため不良、肩凝り、などの症状を認め、頭痛は月経前後や雨降り前にひどくなるそうです。
診察してみると、手足の末端に冷えの所見を認め、両側の脇腹周囲が固くなっており(胸脇苦満 何らかのストレスの影響が伺われます)、臍周囲を圧迫すると痛みを訴え(お血の所見)ました。舌をみると、舌の腫大・歯痕(水毒)、舌下静脈の怒張(お血の所見)を認めました。

お血と水毒(簡単にいうと血のめぐりや水はけが悪い状態)が明らかであったため、桂枝茯苓丸加よくいにん(血に作用する漢方薬)と五苓散(水に作用する漢方薬)を合わせて投与しました。

 2週間後に来られた時には、「調子よいです。頭痛も良くなってロキソニン(ロキソプロフェン)は一回使っただけです」と言われました。頭痛とともに肩凝りも良くなっており、便通も毎日あるとのことでした。普段の偏頭痛もほとんど認めておらず、こんなに効くのかとこちらがびっくりしたくらいです。ただ、手足の冷えはまだ持続していましたので、しばらく漢方薬は継続することにしました。

この方は、頭痛、MRI、漢方と色々ありましたが、色々なことを1日で済ませることができました。