おおたけ脳神経・漢方内科クリニックの院長ブログ

鳥取市にある脳神経外科・脳神経内科・漢方内科の「おおたけ脳神経・漢方内科クリニック」院長ブログです。

2018年01月

今回は両足のしびれの症例を紹介します。

60代女性の方。 3ヶ月前より両足の外側がしびれるとのことで当院を受診されました。
過去に右坐骨神経痛の既往があり、ペインクリニックで腰椎すべり症を指摘されているそうです。
現在両大腿外側から下腿にかけてびりびりとした痛みがあり、歩行がやや不安定な状態でした。両下肢の筋力低下や排泄障害は伴っていませんでした(これらの症状があると外科的治療が必要になることもあります)。
ちなみに、腰椎MRIの写真は次の通りです。
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腰椎の3番目(L3)と4番目(L4)の間ですべり症を認め、脊柱菅が狭窄し神経が圧迫されていました。ただ、画像的には神経の圧迫は強くはなかったので、漢方薬による治療を行う方針としました。

漢方医学的には、どちらかというと寒がりで手足末端が冷える、背部を中心に発汗がある、少し便秘気味などの症状は認めましたが、食欲や睡眠は良好で倦怠感もなく、比較的元気な印象でした。
診察してみると、手足の末端に冷えの所見を認め、お腹は下腹部が軟弱無力(小腹不仁、腎虚といわれる状態です)で心窩部は若干冷たくなっていました。舌をみると、やや暗赤で舌下静脈の怒張(お血の所見)を認めました。脈の力は比較的良好でしたが、若干の渋り(血の巡りが悪い状態)を認めました。 

小腹不仁が明らかでしたので、腎虚による腰痛や下肢のしびれに効果のある牛車腎気丸とし、腰椎すべり症に伴って脊髄周囲の血の巡りが悪くなっていることが予想されましたので(西洋医学的なお血の所見)、血の巡りをよくしながらびりびりとした神経痛に効果のある疎経活血湯を合わせて処方しました。さらに、当院にある物理療法の治療機器(低周波・中周波・高電圧などの複合的な電気治療が可能なASTEOや水の力で全身をマッサージするウォーターベッドなど)も利用してもらうことにしました。

2週間後に来られた時には、「足のしびれは6割程度まで改善しました」と言われました。漢方薬は有効と判断し同処方を継続しました(もちろん物理療法の効果もあります)。さらに2週間後、「最初に来たときよりも大分良くなっています。ただ腰を伸ばすと足がしびれます」と言われました。歩いてもらうと、歩行時足がスムーズに前に出るようになっていました。ただ、手足の冷えの所見は持続しており、診察上も血の巡りが悪い所見が持続していたため、一旦牛車腎気丸がお休みとし代わりに桂枝茯苓丸を疎経活血湯と一緒に投与しました。さらに2週間後、「しびれは4割程度までよくなりました。筋トレができます」とのことでした。まだ完全にはよくなってはいませんので、漢方薬を微調節しながら治療を継続しております。

このように、漢方薬は西洋薬とは違うアプローチで痛みやしびれに対処することが可能です。今回報告した腰痛以外に膝の痛みなどにも効果がありますので、お困りの方はぜひ一度ご相談ください。

またまた頭痛の症例です。

症例は30代の女性です。 元々偏頭痛の既往があり、月に10回程度頭痛を認めるとのことでした。今回は3日前の夜に、何かに打たれたような頭痛(患者さん本人の表現)が出現し、3日連続手持ちのスマトリプタン(偏頭痛の特効薬であるトリプタン製剤のひとつ)を内服しているが頭痛が続くとのことで当院を受診されました。

頭痛は左前頭部に限局しており、スマトリプタンを内服すると一時的には頭痛は改善するそうですが、すぐにぶり返すとのことでした。嘔気や嘔吐はなどの随伴症状は認めず、項部硬直(くも膜下出血や髄膜炎など脳表面を覆うくも膜の炎症で出現する所見 首が硬くなります)や神経学的な異常所見も認めませんでした。
重症感はありませんでしたが、何かに打たれたような頭痛であったことやスマトリプタンの効果があまりないこと、などから一度頭部の精査が必要と判断しMRI及びMRAを撮影しました。

すると・・・、
ぼうすい状動脈瘤


左内頚動脈(頭の中で一番太い血管)が海綿静脈洞と呼ばれる場所を走行する部分で紡錘状に拡張している所見を認めました(左内頚動脈海綿静脈洞部の紡錘状動脈瘤といいます)。普通の動脈瘤は風船状になりますが、この場合は血管が弾性板という組織を失い血管壁全体が膨らみます。前回提示したような血管の解離でも血管壁が不整形に膨らみますが、今回MRIでは解離の所見は認めませんでした。解離を起こしていなければ、血管が破けたり詰まったりする可能性は低いので経過をみることが多いです(時に徐々に大きくなって周囲の組織を圧迫すると治療が必要になることがあります)。とりあえず、数ヵ月後に再度画像評価を行う予定としました。

今回の頭痛に関しては、スマトリプタンが効かないことよりロキソプロフェンを頓服で処方し、漢方薬を試してみることにしました。
漢方医学的には、手足末端の冷えがある、便秘気味、睡眠は頭痛のため不良、肩凝り、などの症状を認め、頭痛は月経前後や雨降り前にひどくなるそうです。
診察してみると、手足の末端に冷えの所見を認め、両側の脇腹周囲が固くなっており(胸脇苦満 何らかのストレスの影響が伺われます)、臍周囲を圧迫すると痛みを訴え(お血の所見)ました。舌をみると、舌の腫大・歯痕(水毒)、舌下静脈の怒張(お血の所見)を認めました。

お血と水毒(簡単にいうと血のめぐりや水はけが悪い状態)が明らかであったため、桂枝茯苓丸加よくいにん(血に作用する漢方薬)と五苓散(水に作用する漢方薬)を合わせて投与しました。

 2週間後に来られた時には、「調子よいです。頭痛も良くなってロキソニン(ロキソプロフェン)は一回使っただけです」と言われました。頭痛とともに肩凝りも良くなっており、便通も毎日あるとのことでした。普段の偏頭痛もほとんど認めておらず、こんなに効くのかとこちらがびっくりしたくらいです。ただ、手足の冷えはまだ持続していましたので、しばらく漢方薬は継続することにしました。

この方は、頭痛、MRI、漢方と色々ありましたが、色々なことを1日で済ませることができました。

皆さん、こんにちは。
突然ですが当院の大きな特徴のひとつが、MRIがすぐに撮影できることです。 もちろん大きな病院でも必要があれば(ある程度の緊急性があれば)MRIはすぐに撮影できますが、そこまで緊急性が高くないと判断された場合は、数週間から1ヶ月程度先の予約待ちになることが多いと思います。MRIのメリットは、CTのような被爆がなく人体に害がないこと、詳細な画像評価ができること、造影剤という薬を用いずに血菅の情報が得られること、などが挙げられます。
今回はMRIによって血管の解離が判明し、すぐに大きな病院へと紹介することができた症例を紹介します。

症例は40台の男性。3日前と2日前に1時間程度続く回転性めまいを認め、当院を受診されました。 
受診時にはめまいは治まっており、神経学的検査(視力や視野の異常、目の動きや顔の動き、耳の聴こえや平衡機能、舌や咽頭の動き、会話や嚥下機能、手足の動きやふるえ、歩行の状態などを診察します)には異常は認めませんでした。
その他、週に2回程度頭痛を認めるようでしたが、今回のめまいの時に頭痛は 伴っていなかったようです。また、軽いめまいは年に数回程度おこることがある、とのことでした。

めまいの既往がある方の回転性めまいであり(回転性のめまいは三半規管の機能低下であることが多いです)、神経学的検査でも異常を認めなかったことから、いわゆる脳梗塞などの脳の病気は否定的かなと思われました。ただ、比較的若い男性がわざわざ仕事を休んで病院を受診されていることに、ちょっとひっかかるところがありましたので、念のため頭部MRIを撮影しました。

すると・・・
MRI
FILE0_0

MRA
VR

左椎骨動脈(小脳や脳幹と呼ばれる場所に血液を送る血管)の壁が一部裂けており、血管の壁の中に出血を来していました(MRIの画像で白く光っている所)。また裂けた椎骨動脈は不整に拡張し、血液の流れが悪くなっていました(MRAの立体画像)。
裂けた椎骨動脈近辺より、内耳動脈や弓状動脈と呼ばれる三半規管(平衡機能に関与)や蝸牛(聴力に関与)を栄養する細い血管が枝分かれしており、血管解離により一時的に三半規管の血流が悪くなり、めまいを起こしたものと考えられました。
当院受診時には幸い症状は認めませんでしたが、今後血管解離が進行していくと脳梗塞やくも膜下出血をきたす可能性もあるため、近隣の中核病院に紹介させて頂きました。

椎骨動脈解離は、青壮年者の突然の後頚部痛をきたす疾患として有名で、脳梗塞やくも膜下出血を合併するリスクが高い病気です。発症当初は厳重な血圧管理が重要になりますが、この方の場合は脳梗塞の合併はなく、血圧も正常範囲内でした。多くの場合は比較的強い後頚部痛を合併していることが多いのですが、頭痛の訴えは認めなかったため、最初は椎骨動脈解離を疑うことはできませんでした。MRIがなければ、頭部CTを撮影し出血や腫瘍がないことを確認して自宅で経過観察にしていたと思います(CTでは血管の異常ははっきり映らないことが多いです)。

MRIを撮影して本当によかったのですが、臨床診断の難しさを改めて実感した症例でした。

平成30年になりました。開院してまだ2ヶ月しか経過していませんが、たくさんの患者さんに来院して頂き、身の引き締まる思いでおります。皆様方が少しでも健康で快適に生活できるように、スタッフ一同頑張って参りますので、今年もおおたけ脳神経・漢方内科クリニックをどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年最初の症例も頭痛と漢方から始めたいと思います。 

症例は20代後半の女性です。 元々頭痛持ちで、月に1回程度は頭痛を認めていたようですが、最近週に2回は頭痛を認め、市販の頭痛薬の効果も今一つとのことで当院を受診されました。
頭痛は両こめかみがずきずき痛み、若干体動での増悪を認めるようでしたが、前兆はなく嘔気や嘔吐、音過敏・光過敏などの随伴症状は認めませんでした。元々肩凝りを認め、最近肩凝りが強くなっている、とのことでしたので、緊張型頭痛の増悪と判断しました。筋弛緩薬や少量の抗うつ薬などの予防薬も検討しましたが、患者さんが希望されなかったため、漢方薬で調節する方針としました。 

漢方医学的には、手足末端の冷えがある、睡眠不良で寝起きが悪い、ホットフラッシュがある、手掌発汗あり、月経時に肌荒れがある、仕事が忙しくて倦怠感が強い、いらいらする、などの症状があります。
診察してみると、手足の末端に冷えの所見を認め、両側の脇腹周囲が固くなっており(胸脇苦満 何らかのストレスの影響が伺われます)、臍周囲を圧迫すると痛みを訴え(お血の所見)となっていました。舌をみると、やや暗赤で辺縁が厚くなっており(肝うつの所見)、舌の腫大・歯痕(気虚あるいは水毒)、舌下静脈の怒張(お血の所見)を認めました。

仕事のストレスからか心と体の緊張が強くなっているようでした。さらにホルモンバランスの乱れも生じ、ホットフラッシュや不眠、いらいら、肌荒れなどの症状も呈していました。診察の所見もそれを裏付けていましたので、ホルモンバランスを整え血の巡りをよくする作用のある加味逍遥散桂枝茯苓丸加よくいにんを合わせて処方しました。

 2週間後に来られた時には、「頭痛もにきびもよくなってきた、ホットフラッシュもなくなり、朝起きるのが楽になった」と言われました。ただ、一度嘔気を伴うひどい頭痛があって、そのとき風呂に入って頭痛が悪化した、とのことでした。今回認めた頭痛は片頭痛の可能性が高いと判断し、念のためエレトリプタン(片頭痛の特効薬であるトリプタン製剤のひとつ)を頭痛時の頓服で処方しました。診察上は前回とほぼ同様の所見であったため、加味逍遥散桂枝茯苓丸加よくいにんは継続としました(ただ漢方薬の量が少し多いと言われたので少し減量して処方しました)。

さらに2週間後には、「軽いものも含めて頭痛はほぼなくなった、にきびもよくなった、今回の生理はいつもより痛みが楽だった」と言われました。主訴の頭痛はよくなっていたので一旦終了でも良かったのですが、肩凝りや手足の冷えは持続しており便通もやや不良であったため、もうしばらく漢方薬を内服していた方が全体的に調子がよくなるだろうと思われました。また今回診察してみると、下腹が冷たくなっていましたので、前回処方にお腹を温めて便通改善も期待できる当帰建中湯を合わせて処方しました。

このように漢方薬を投与していると、主訴以外の症状もよくなっていくのがおもしろいところです。

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