症例は80代の女性の方です。
息子さんと二人暮らしをされていますが、この冬頃からに元々認めていた認知症が急激に悪くなった、とのことで当院を受診されました。

以前はデイサービスの準備も自分で行い、日常生活に見守りは必要ない状態だったようですが、最近ぼーっとすることが多く、入れ歯をいれるのも忘れてしまうようです。また、近所に一人で買い物に出かけて帰れなくなり、警察に自宅まで送ってもらったこともあるそうです。
診察室には車イスで入室されました。お話はできましたがやや反応が鈍い印象でした。誰かに介助してもらえばゆっくり歩行はできましたが、自力での歩行は困難でした。診察してみると右上下肢の動きが悪くなっており(右不全方麻痺)、家族に話を聞いてみると最近右手をあまり使わないようだ、とのことでした。また、頭部に古い皮下血腫(たんこぶ)を認めました。

問診票を見た段階では、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などを考えていましたが、実際に診察してみると、軽い意識障害、右不全麻痺、頭部打撲の既往などの所見から、別の病気が頭に浮かびました。

頭部MRIを撮影してみると・・・ 
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頭の右側に三日月型の血種ができており、脳が強く圧排されていました。
これは慢性硬膜下血腫という病気で、高齢者の方が頭をぶつけた後、数週間から3か月程度の経過で頭と頭蓋骨のすき間に少しずつ血がたまり、頭痛、手足の麻痺、物忘れなどの症状をきたします。程度が軽ければ止血剤などの薬で、程度が重くても比較的簡単な手術で治療が可能です。正常圧水頭症とともに治る認知症としても有名な病気です。

この方の場合は、血種が大きく麻痺もきたしていたため、近隣の病院に連絡し手術を受けて頂きました。ご家族のお話では、手術後麻痺も認知症状もすっかり良くなったようです。

このように、ご高齢の方が急に元気がなくなる、今まで出来ていたことができなくなる、物忘れが悪化する、などの症状をきたした場合、慢性硬膜下血腫や脳梗塞などの病気が隠れていることがありますので、皆さんご注意ください。