症例は50代後半の女性です。 胃腸症状や動悸などの症状で、漢方薬を処方していました。最近はふらつきと頭の締め付け感に対して、苓桂朮甘湯と九味檳榔湯をエキス製剤で投与しておりました。

乳癌の既往のある方なのですが、術後検査のために造影CTを行った後から体がえらくなったとのことで、臨時当院で当院を受診されました。動悸の頻度がやや増加しており、ふわーとするめまい感を伴い運転中もふわふわするとのことでした。頭の病気(脳梗塞など)を疑わせる所見は認めず、めまい感も吐き気や嘔吐を伴うほど激しいものではなかったため、漢方薬で治療する方針としました。

もともとのぼせる傾向の方でしたが、今回は顔面も赤みを帯びて上気しているようでした。反対に足先は冷えており、冷えのぼせの傾向を示していました。漢方医学的には、通常上から下へ流れるべき気が逆転し、気逆の状態となっているものと思われました。
気逆の状態になると、動悸や発汗、冷えのぼせ、発作性の頭痛、焦燥感、顔面紅潮、物事に驚きやすい、などの症状をきたします。治療の原則は桂枝と甘草の生薬の組み合わせで、気の逆流を下向きに戻すようにします。
今回の症例では、苓桂味甘湯(茯苓、桂枝、五味子、甘草の4種類の生薬からなります)という煎じ薬を処方しました。

2週間後の再診時には、動悸の頻度が減ってきた、頭重感が減ってふわふわしなくなった、とのことでした。顔面の赤みも軽減していました。さらに同処方を継続し、動悸、めまい感はほぼ消失しましたが、煎じ薬を内服していた方が調子が良いので微調整をしながら継続投与しております。

最近は季節の変わり目で気温や気候が一定しないためか、めまいを訴える患者さんが増えています。
めまいに用いられる漢方薬は、水の巡りが悪ければ真武湯や五苓散が、気の巡りが悪い(気逆)・気が足りない(気虚)などの気の変調があれば桂枝甘草が含まれる方剤(苓桂朮甘湯、苓桂味甘湯、苓桂甘棗湯など)や半夏白朮天麻湯、釣藤散などが、自律神経のバランスが悪ければ柴胡剤(柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散)や三黄瀉心湯などが、患者さんの体質や状態に合わせて選択されます。

めまいでお困りの方がおられれば、ご相談ください。