おおたけ脳神経・漢方内科クリニックの院長ブログ

鳥取市にある脳神経外科・脳神経内科・漢方内科の「おおたけ脳神経・漢方内科クリニック」院長ブログです。

カテゴリ: 認知症

先日認知症で通院している患者さんの夫から、「先生、この前新聞に新しい認知症の薬が出てましたけど、うちのに使えませんかね」、との質問を頂いた。おそらくレカネマブのことだろうと思い、「アメリカで正式承認されており、いずれ日本でも認可される可能性が高いですが、認知症の初期の人が対象ですし、あまり効果もはっきりしていなので、現時点では難しいかもしれませんね」と返事をしました。
今回はそんなレカネマブについて、少しまとめてみました。

レカネマブとは、日本のエーザイ株式会社とアメリカのバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の治療薬です。アルツハイマー病では、患者の脳内に存在するアミロイドβというタンパク質が蓄積されてかたまりになると(タウたんぱく)、神経細胞が破壊され認知機能が低下すると考えられています。レカネマブは、かたまりになる前のアミロイドβにくっついて除去することで、認知機能の低下を抑制します。
レカネマブの効果は
レカネマブ投与は、18ヵ月間の研究でCDR-SBスコア(範囲0〜18点で高いほど障害が強い)の悪化を偽薬群に比べて0.45点(27.1%)抑制し、統計的に有意(P<0.001)でした。発症早期の患者においては、18ヵ月でわずかながら改善が見られたようです。
(「27%進行を抑制する」という表現には誤解の余地があり、実際の点数差が重要と思われます。18ヵ月後の点数比較はレカネマブ群4.41点、偽薬群4.86点、差0.45点の違いしかなく、患者さんや家族が効果を実感することがない程度と言われています。)
レカネマブの副作用は
臨床試験において、被験者約1800人の内、17%に脳の出血、12%に脳の腫れがみられたということです。これらのほとんどのケースでは症状が無かったようですが、一部の被験者は副作用を理由に投与を中止する必要があったと報告されています。そのほか、記憶に関係する海馬萎縮は予防しますが原因不明の全脳萎縮をきたします。
レカネマブを使用できる人は
MCIもしくは軽度アルツハイマー型認知症で、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査によりアミロイドβの蓄積が確認された人が対象。また、2週間に1回点滴投与をする必要があり、3か月ごとにMRIでの副作用のモニタリングが必要です。

費用対効果(アメリカでは年間350万円)や安全性の面からも、まだまだ検討の余地が残っている薬剤という印象です。



皆さん、こんにちは。
今回は認知症についておはなししたいと思います。
日本では人口の高齢化がすすみ、それにともない認知症の高齢者数も急増しています。65歳以上の高齢者における認知症および軽度認知障害(物忘れはあるが日常生活は自立)の方は、合わせて1,000万人を超えているともいわれています(人口の10%弱になります)。

認知症症状には、中核症状と周辺症状のふたつがあります。中核症状には記憶や学習障害、判断力低下、失語(言葉が理解できない・うまく話せない)、失行(服の着方やトイレの使いかたが分からない)、失認(見たもの、聞いたもの、触れたものが分からない)などがあります。これら中核症状に、不安、うつ状態、妄想、幻覚などの精神症状(周辺症状)が加わってくると、家族の介護負担が増えていきます。

認知症の診断には、物忘れが年齢による生理的なものか、あるいはアルツハイマー病などの病気によるものか、はたまた全く別の病気によるものか、の判断が重要になってきます。そのためには、患者さんの経過(病歴)をしっかり聞くことと心理検査(長谷川式簡易知能評価スケールなど)を行うことが最も大事ですが、一度は脳の画像診断を受ける必要があります。

例えば、60代の男性、数年前から物忘れの自覚があり、仕事でミスを指摘されていた。長谷川式スケールは24点(30点満点で20点以下が認知症)で、軽度認知障害の疑いになります。頭部MRIを撮影すると、
視床梗塞

左側の視床というところに小さい脳梗塞を認めました。これが軽度の物忘れの原因と考えられたため、このかたには血液サラサラの薬をはじめて、その後物忘れはすすんでいません。
その他、以前このブログで紹介した慢性硬膜下血腫などでも物忘れのような症状を認めることがあります。

このほかにも、認知症に似た症状をおこす病気がいろいろあります。
とくに、最近急に物忘れがすすんできたかたの中には、今回のように脳梗塞が隠れていることもあるので注意してください。

症例は80代の女性の方です。
息子さんと二人暮らしをされていますが、この冬頃からに元々認めていた認知症が急激に悪くなった、とのことで当院を受診されました。

以前はデイサービスの準備も自分で行い、日常生活に見守りは必要ない状態だったようですが、最近ぼーっとすることが多く、入れ歯をいれるのも忘れてしまうようです。また、近所に一人で買い物に出かけて帰れなくなり、警察に自宅まで送ってもらったこともあるそうです。
診察室には車イスで入室されました。お話はできましたがやや反応が鈍い印象でした。誰かに介助してもらえばゆっくり歩行はできましたが、自力での歩行は困難でした。診察してみると右上下肢の動きが悪くなっており(右不全方麻痺)、家族に話を聞いてみると最近右手をあまり使わないようだ、とのことでした。また、頭部に古い皮下血腫(たんこぶ)を認めました。

問診票を見た段階では、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などを考えていましたが、実際に診察してみると、軽い意識障害、右不全麻痺、頭部打撲の既往などの所見から、別の病気が頭に浮かびました。

頭部MRIを撮影してみると・・・ 
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頭の右側に三日月型の血種ができており、脳が強く圧排されていました。
これは慢性硬膜下血腫という病気で、高齢者の方が頭をぶつけた後、数週間から3か月程度の経過で頭と頭蓋骨のすき間に少しずつ血がたまり、頭痛、手足の麻痺、物忘れなどの症状をきたします。程度が軽ければ止血剤などの薬で、程度が重くても比較的簡単な手術で治療が可能です。正常圧水頭症とともに治る認知症としても有名な病気です。

この方の場合は、血種が大きく麻痺もきたしていたため、近隣の病院に連絡し手術を受けて頂きました。ご家族のお話では、手術後麻痺も認知症状もすっかり良くなったようです。

このように、ご高齢の方が急に元気がなくなる、今まで出来ていたことができなくなる、物忘れが悪化する、などの症状をきたした場合、慢性硬膜下血腫や脳梗塞などの病気が隠れていることがありますので、皆さんご注意ください。

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